熱設計の基本、電子基板上の発熱部品の温度計算と放熱対策の考え方
発熱部品の温度計算と放熱対策は、電子機器の信頼性や寿命を大きく左右します。試作段階では問題なく動いていても、いざ製品化して量産に入ると、熱による不具合が発生するケースは少なくありません。特に、高機能なICやFETといった発熱量の大きい部品を使う場合、適切な熱設計がなければ、製品寿命が短くなったり、意図しない誤動作を起こしたりする可能性があります。
このコラムでは、電子基板上の発熱部品の温度計算の基本から、具体的な放熱対策の考え方までを解説します。
なぜ電子機器の熱設計が重要なのか
電子部品は、動作中に必ず熱を発生させます。この熱が適切に処理されないと、次のような問題が起こります。
- 部品の寿命短縮: 半導体部品は温度が10℃上昇すると寿命が半分になる、という経験則があるほど、温度は寿命に直結します。
- 性能低下・誤動作: 高温になると、半導体の特性が変化し、信号の遅延、ノイズの増加、電力効率の低下など、設計通りの性能が出せなくなることがあります。最悪の場合、誤動作や停止に至る可能性もあります。
- 安全性への影響: 極端な発熱は、火傷や火災のリスクにつながり、製品の安全性に関わります。製品の安全規格(PSEなど)においても、表面温度の許容範囲が定められています。
熱の伝わり方と温度の考え方
熱は主に「熱伝導」「熱対流」「熱放射」の3つの方法で伝わります。電子機器の熱設計では、これらの伝達経路を理解し、効率的に熱を外部へ逃がす工夫が必要です。
また、熱設計で重要となる温度には、いくつかの種類があります。
- 接合部温度(Junction Temperature: Tj): 半導体チップ内部の実際に発熱している部分(PN接合部)の温度です。この温度が部品の絶対最大定格を超えないように設計することが最も重要です。
- ケース温度(Case Temperature: Tc): 部品のパッケージ表面の温度です。
- 周囲温度(Ambient Temperature: Ta): 部品の周囲の空気の温度です。
これらの温度は、部品のデータシートで許容範囲が示されており、設計者はTjが最大定格を超えないように設計しなければなりません。
熱抵抗の理解と発熱部品の温度計算
熱設計の核となるのが「熱抵抗(Thermal Resistance: Rth)」という考え方です。これは、電気回路における抵抗と同様に、熱の流れにくさを表す指標です。熱抵抗が低いほど、熱は伝わりやすくなります。単位は[℃/W]または[K/W]で表されます。
データシートには、主に以下の熱抵抗値が記載されています。
- 接合部-周囲間熱抵抗(Rthja: Thermal Resistance, Junction to Ambient): 接合部から周囲の空気までの熱抵抗。ヒートシンクがない場合や、基板による放熱を考慮しない場合の簡易的な計算に使われます。
- 接合部-ケース間熱抵抗(Rthjc: Thermal Resistance, Junction to Case): 接合部からパッケージ表面までの熱抵抗。ヒートシンクを取り付ける場合の計算に用いられます。
- ケース-ヒートシンク間熱抵抗(Rthcs: Thermal Resistance, Case to Heat Sink): パッケージ表面からヒートシンクまでの熱抵抗。放熱グリスや熱伝導シートの特性で決まります。
- ヒートシンク-周囲間熱抵抗(Rthsa: Thermal Resistance, Heat Sink to Ambient): ヒートシンクから周囲の空気までの熱抵抗。ヒートシンクの性能を表します。
これらの熱抵抗を使って、接合部温度Tjを計算する基本的な式は次のようになります。
Tj = Ta + P × Rthja
(Pは消費電力[W])
この式は、部品単体で放熱を考える場合の最もシンプルな形です。ヒートシンクを使用する場合や、より詳細に考える場合は、熱抵抗を直列に接続したモデルで計算します。
Tj = Ta + P × (Rthjc + Rthcs + Rthsa)
例えば、周囲温度Taが40℃の環境で、消費電力Pが2WのICを使用するとします。このICのRthjaが50℃/Wだった場合、Tj = 40℃ + 2W × 50℃/W = 140℃となります。もしICの最大定格Tjが125℃であれば、このままでは使えないため、放熱対策が必要になります。
基板レベルでの放熱対策
発熱部品の多くは基板に実装されるため、基板自体を放熱経路として活用することは非常に効果的です。
放熱パターンと銅箔面積の活用
電子基板の銅箔は熱伝導率が高いため、発熱部品のランドや周囲の銅箔面積を広げることで、熱を基板全体に拡散させ、放熱効果を高められます。特に、電源やグランドの層をベタパターンにすると、大きな放熱経路として機能します。部品のデータシートに推奨されるランドパターンや放熱パッドの形状が記載されている場合が多いので、それに従うのが基本です。
サーマルビアの活用
サーマルビア(Thermal Via)は、基板の層間を電気的に接続するビア(Via)と同様に、熱を層間や基板の裏面に効率良く伝えるためのビアです。発熱部品の放熱パッド直下に多数のサーマルビアを配置することで、熱を基板の裏面や内部の放熱層へ逃がし、さらに裏面にヒートシンクを取り付けるといった対策が可能になります。ビアの数や径、メッキの有無、ランドとの接続方法などが放熱効果に影響します。
多層基板の活用
2層基板よりも多層基板の方が、内部に電源層やグランド層といった銅箔の広い層を持つため、全体としての熱容量が大きくなり、放熱性能が高まります。特に高密度実装や高発熱部品を扱う場合は、多層基板の採用が有効な選択肢となります。
部品レベルでの放熱対策:ヒートシンクの選定
基板だけでは放熱が間に合わない場合、発熱部品にヒートシンクを取り付けるのが一般的な対策です。ヒートシンクは、表面積を大きくすることで、空気への熱伝達(熱対流、熱放射)を促進します。
ヒートシンクを選定する際は、まず必要な熱抵抗値Rthsaを逆算します。
例えば、先ほどの例でTjを120℃以下に抑えたい場合、
Rthsa = (120℃ - 40℃) / 2W - (Rthjc + Rthcs)
この計算で求められたRthsa以下となるヒートシンクを選びます。
ヒートシンクの選定時には、以下の要素を考慮します。
- 熱抵抗値: データシートに記載されたRthsa値を確認します。
- サイズと形状: 筐体内のスペース、空気の流れ、取り付け方法を考慮します。フィン(放熱板)の形状や高さ、幅が放熱性能に影響します。
- 材質: 一般的には熱伝導率の高いアルミニウムや銅が使われます。
- 取り付け方法: ネジ止め、クリップ、接着などがあります。部品との密着性を高めるために、熱伝導グリスや熱伝導シートを併用することがほとんどです。
筐体・システムレベルでの放熱対策
基板や部品単体での対策だけでなく、製品全体としての熱の流れを考慮することも重要です。
- 筐体の材質と形状: 熱伝導率の高い金属筐体は、それ自体がヒートシンクとして機能します。通気孔を設けることで、内部の熱気を外部へ排出する効果もありますが、防塵性や防水性とのトレードオフになります。
- 空気の流れ: 自然対流だけで足りない場合は、冷却ファンによる強制空冷を検討します。ファンを設置する場合は、吸気と排気の経路を明確にし、ショートサーキット(吸気がそのまま排気に回ってしまうこと)が起きないように設計します。
- 部品配置: 発熱量の大きい部品同士を離して配置したり、空気の通り道を妨げないように配置したりすることも有効です。
製品開発における熱設計の重要性
試作品は手元で数台動けば良いですが、製品として数多く出荷するとなると、話は変わります。量産される製品では、個体差、使用環境、経年劣化など、様々な要因で熱問題が発生するリスクがあります。特に、小型化・高機能化が進む現代の電子機器では、熱密度が高くなる傾向にあるため、熱設計の重要性は増すばかりです。
当社サイコス・ジャパン株式会社は1990年創業で、35年にわたり製品開発を支援してきました。お客様が持ち込まれた試作品を製品化する際、単に回路を組むだけでなく、機構設計の視点から筐体内の空気の流れや放熱経路を検討し、基板設計で放熱パターンやサーマルビアを最適化するなど、多角的に熱問題を解決する支援をしています。製品の信頼性や安全性を確保するためには、設計段階から熱対策を織り込むことが不可欠です。
お困りの際は専門家にご相談ください
熱設計は、理論的な計算だけでなく、部品の特性、基板の構造、筐体の形状、使用環境など、多くの要素を総合的に考慮する必要があります。特に、複雑な形状の部品や、密閉された空間での放熱など、シミュレーションや実測が必要となる場面も出てきます。
もし、発熱問題で製品化が進まない、試作段階で温度上昇に悩んでいるといった状況でしたら、まず一度ご相談ください。当社では初回相談は無料です。試作品をお持ちの方は、写真と経緯のメモだけでも構いませんので、まずご相談ください。