IPX/IP規格の基礎と筐体設計への適用、防塵・防水の等級別に必要な設計要件
屋外や水回り、あるいは粉塵の多い工場などで使う製品を開発する際、筐体の防塵・防水性能は避けて通れない課題です。せっかく作った試作品も、想定する使用環境で十分に機能しなければ製品として成立しません。どのような環境で使うかによって、求められる防塵・防水のレベルは大きく変わります。
製品の防塵・防水性能を示す国際的な指標が「IP規格」です。この規格は、固形異物の侵入に対する保護等級と、水の侵入に対する保護等級を数字で明確に示します。適切なIP等級を目標に設定し、それに応じた筐体設計を行うことが、信頼性の高い製品を生み出す上で不可欠です。
IP規格とは何か:第1・第2特性数字が示す意味
IP規格は、IEC(国際電気標準会議)が定めるIEC 60529に基づいており、電気機器の筐体による保護等級を示します。「IP」の後に続く2つの数字がそれぞれ、固形異物に対する保護等級と水の侵侵入に対する保護等級を表します。例えば「IP67」であれば、最初の「6」が固形異物、次の「7」が水の侵入に対する保護レベルです。
もしどちらかの保護等級を評価しない場合は、その数字の代わりに「X」が使われます。例えば「IPX4」は固形異物に対する保護は評価されていないが、水の侵入に対しては保護等級4の性能を持つことを意味します。製品の具体的な使用環境を想定し、必要な保護等級を定義することが設計の第一歩です。
第1特性数字:固形異物に対する保護等級
第1特性数字は、人体および固形異物の侵入に対する保護のレベルを示します。数字が大きくなるほど、より微細な固形異物からの保護が強化されます。
- 0:保護なし
- 1:直径50mm以上の固形物からの保護(手で触れる程度)
- 2:直径12.5mm以上の固形物からの保護(指で触れる程度)
- 3:直径2.5mm以上の固形物からの保護(工具などで触れる程度)
- 4:直径1.0mm以上の固形物からの保護(ワイヤーなどで触れる程度)
- 5:防塵形(有害な影響を及ぼす量の粉塵が侵入しない)
- 6:完全な防塵形(粉塵の侵入がない)
特に「5」と「6」は、粉塵が多い環境での使用を考える上で重要な等級です。
第2特性数字:水の侵入に対する保護等級
第2特性数字は、水の侵入に対する保護のレベルを示します。こちらも数字が大きいほど、より厳しい水の侵入条件に耐えられます。
- 0:保護なし
- 1:鉛直に落下する水滴からの保護
- 2:鉛直から15°の範囲で落下する水滴からの保護
- 3:鉛直から60°の範囲で噴霧される水からの保護
- 4:あらゆる方向からの飛沫からの保護
- 5:あらゆる方向からの噴流からの保護
- 6:あらゆる方向からの強力な噴流からの保護
- 7:一時的な水没に対する保護(水深1m、30分間)
- 8:継続的な水没に対する保護(製造者と使用者間で合意された条件)
水回りでの使用では、少なくとも「4」以上が求められることが一般的です。「7」や「8」は、水中での使用や、水没の可能性のある環境で特に重要です。
IP54等級の筐体設計要件
IP54は、防塵形(有害な影響を及ぼす量の粉塵が侵入しない)と、あらゆる方向からの飛沫からの保護を意味します。一般的な屋外使用や、多少の粉塵・水滴がかかる環境での利用に適しています。
設計においては、筐体の合わせ目にガスケットやOリングを適切に配置し、粉塵や水滴の侵入経路を遮断することが基本です。コネクタやスイッチ、インジケーターなどの開口部には、それぞれIP54対応の部品を選定します。ケーブルを引き出す部分には、適切なサイズのケーブルグランドを使用して密閉性を確保します。試験条件としては、防塵試験(粉塵雰囲気中での動作確認)と、あらゆる方向からの飛沫散水試験(規定の水量と時間で散水し、内部への浸水がないか確認)が行われます。
IP67等級の筐体設計要件
IP67は、完全な防塵形(粉塵の侵入がない)と、一時的な水没に対する保護(水深1m、30分間)を意味します。屋外での使用で、一時的に水没する可能性のある環境や、高圧洗浄されるような状況に耐える製品に求められます。
この等級を目指す場合、筐体全体の密閉性をさらに高める必要があります。合わせ面には、圧縮率の高いシリコンゴムなどのシール材を隙間なく配置し、ネジ止めなどで均一に圧力をかける設計が求められます。コネクタは、水没に耐える防水コネクタを選定し、ケーブルグランドも完全密閉型のものを使用します。特に、筐体内部の気圧変動による水分の吸い込みを防ぐため、圧力調整弁(ブリーザーバルブ)の設置を検討することもあります。試験では、完全防塵試験と、規定の水深と時間での水没試験が行われます。
IP68等級の筐体設計要件
IP68は、完全な防塵形と、継続的な水没に対する保護を意味します。この「継続的な水没」の条件は、メーカーと使用者間で水深や時間を具体的に合意する必要があります。水中での常時使用や、非常に過酷な水没環境での使用が想定されます。
IP68の設計では、IP67よりもさらに厳密な対策が必要です。筐体は、一体成形や溶着などにより、極力合わせ面を減らす構造が有利です。シール材は耐久性の高いものを厳選し、長期的な水圧に耐えうる設計とします。コネクタやケーブルグランドは、専用のIP68対応品を選定し、取り付け部の防水処理も徹底します。水圧による筐体変形やシール材の劣化も考慮し、設計段階で十分な余裕を見込むことが重要です。試験は、合意された水深と時間での水没試験を実施し、内部への水の侵入がないことを確認します。製品の使用環境によっては、耐海水性や耐薬品性なども考慮する必要があります。
防塵・防水設計の実務と注意点
防塵・防水設計は、単にシール材を貼るだけではありません。実務では多角的な視点が必要です。
- シール材の選定と設計: Oリング、ガスケット、液状ガスケットなど、使用環境や筐体の構造に合わせて最適な種類を選びます。材質の耐候性、耐薬品性、そして圧縮率や耐久性を考慮した設計が重要です。特に、繰り返し開閉する部分では、シール材の劣化や摩耗も考慮しなければなりません。
- 開口部の対策: コネクタ、スイッチ、表示窓、マイク・スピーカーなどの部品は、それぞれ防塵・防水性能を持つものを選定します。特に、カスタム品ではない汎用部品を使う場合は、その部品が持つIP等級を確認し、筐体への取り付け方法でその性能を損なわないように工夫が必要です。
- 筐体材料の選定: 筐体自体の材料も重要です。屋外での使用であれば、紫外線や温度変化に強い耐候性のある樹脂や金属を選びます。衝撃や薬品への耐性も考慮に入れる必要があります。
- 製造時の品質維持: 設計が優れていても、製造時の組み立て精度や締め付けトルクが不適切だと、期待する防塵・防水性能は発揮されません。組み立て手順の明確化や、専用工具の使用、品質検査の実施が不可欠です。
- 設計上の余裕設定: IP規格の試験条件は最低限の基準です。実際の使用環境では、規定以上の水圧や粉塵にさらされる可能性も考慮し、目標とするIP等級よりも一段上の性能を目指すなど、設計に余裕を持たせることが信頼性向上につながります。
試作段階では、3Dプリンターで機能や形状を確認できますが、積層痕が見えるため、人に見せる製品サンプルとしてはCNC削り出しなど別の工法を使うのが一般的です。量産を前提とする場合、金型製作が必要になることが多く、日本で金型を1型起こすにはおよそ100万円程度の費用がかかることも目安として知っておくと良いでしょう。
サイコス・ジャパンの製品開発支援
当社サイコス・ジャパン株式会社では、機構設計から電子回路、基板、組み込みソフト、クラウド、そして量産まで、製品づくりの全工程を一社で手掛けています。特に、他社や個人、フリーランスの方が作った試作品を、実際に市場で通用する製品へと昇華させるご相談を多くお受けしています。
防塵・防水設計もその一つで、お客様の製品の使用環境や予算に応じて、最適な材料選定、構造設計、部品選定、そして試験方法まで一貫してサポートします。例えば、少量生産(10台〜100台程度)であれば既製品の筐体や部品を最大限活用し、足りない部分だけを設計するといった柔軟な対応も可能です。製品化の経験が豊富な技術者が、設計上の課題を解決し、信頼性の高い製品づくりを支援します。
防塵・防水性能を始めとする筐体設計は、製品の信頼性や寿命に直結する重要な要素です。試作品の段階で性能に課題を感じている方や、これから本格的な製品化を目指している方は、まずはお気軽にご相談ください。当社では初回のご相談を無料で承っています。