筐体機構

射出成形の抜き勾配設計、金型から製品を抜くために必要なテーパー角度の基本

射出成形の抜き勾配設計、金型から製品を抜くために必要なテーパー角度の基本

射出成形の抜き勾配設計、金型から製品を抜くために必要なテーパー角度の基本

試作品が形になり、いよいよ量産を考え始めたとき、多くの人が直面するのが「金型設計」の壁です。特に射出成形では、製品の形状にちょっとした工夫が必要になります。その一つが「抜き勾配」です。

抜き勾配とは、金型から成形品をスムーズに取り出すために、側面につけるわずかな傾斜のことです。この勾配がないと、金型から製品が抜けなくなったり、無理に抜こうとして製品が変形したり、最悪の場合、金型自体が損傷してしまうこともあります。

機能試作で3Dプリンターを使っていた場合、積層痕が見えても機能を満たせば問題ありません。しかし、射出成形による量産品では、外観の美しさや製品としての品質が求められます。抜き勾配は、まさに「製品として成立させる」ための重要な設計要素なのです。

なぜ抜き勾配が必要なのか

射出成形では、溶融した樹脂が金型に充填され、冷却されて固まります。このとき、樹脂は冷却されて収縮する性質を持っています。収縮は製品全体で起こりますが、特に金型の壁面に沿って内側に縮もうとします。

この収縮によって、成形品は金型の内壁に密着し、摩擦が生じます。抜き勾配がないと、この摩擦が非常に大きくなり、金型が開いても製品が金型に貼り付いたままになってしまいます。無理に押し出そうとすると、製品の表面に傷がついたり、ひび割れや白化といった不良が発生したりします。また、金型の寿命を縮める原因にもなります。

金型から製品をスムーズに、そして安全に取り出すためには、この摩擦を最小限に抑えることが不可欠です。抜き勾配は、製品が金型から離れる方向へわずかに傾斜をつけることで、この摩擦抵抗を低減し、製品の取り出しを容易にする役割を担っています。

抜き勾配の基本的な付け方

抜き勾配の最適な角度は、製品の形状、深さ、使用する樹脂の種類、表面処理などによって変わりますが、一般的には0.5度から1度が最低限必要とされています。これは、金型の構造や加工精度を考慮した上で、製品がスムーズに抜けるための一般的な目安です。

より深い形状の部品や、摩擦抵抗が大きい樹脂(例えば、ガラス繊維入り樹脂など)を使用する場合は、さらに大きな勾配が必要になります。例えば、深さ100mmの部品であれば、1度の勾配で片側約1.7mmのテーパーがつきます。

また、製品の「外観面」と「内面」で勾配の付け方を考慮することもあります。外観を重視する面は、できるだけ緩やかな勾配にするか、あるいは金型の開き方向に対して平行に近い面を設けることで、外観への影響を最小限に抑える工夫がなされます。一方で、内面や目立たない部分には、より大きな勾配を付けて、抜きやすさを優先することもあります。

シボ加工を施す場合の追加勾配

製品の表面に「シボ加工」を施すことはよくあります。シボ加工とは、革製品のような質感や梨地のようなマットな質感を出すための表面処理です。見た目の質感向上だけでなく、傷を目立たなくしたり、滑り止め効果を持たせたりする目的もあります。

しかし、このシボ加工は、金型内壁と成形品の間の摩擦を大きく増やします。表面が粗くなることで、引っかかりが生じやすくなるためです。そのため、シボ加工を施す場合は、通常の抜き勾配に加えて、さらに大きな勾配を設ける必要があります。

一般的に、シボの深さやパターンにもよりますが、通常の抜き勾配に1度から3度程度の追加勾配が必要になると言われています。例えば、シボが深い場合は、合計で3度から5度程度の勾配が必要になることも珍しくありません。シボ加工を検討する際は、加工業者や金型メーカーと密に連携を取り、適切な勾配量を決定することが重要です。

アンダーカット形状の処理方法

抜き勾配を設けても、金型からそのままでは抜けない形状があります。これを「アンダーカット」と呼びます。例えば、側面に穴が開いている、フックのような突起がある、内側にリブが回り込んでいるといった形状です。

アンダーカットは、金型を単純に開閉するだけでは製品が引っかかってしまい、取り出すことができません。このような形状を成形するためには、金型に特殊な機構を組み込む必要があります。主な処理方法としては、スライドやコアといった機構が用いられます。

  • スライド(Slide Core):金型の開閉方向に対して垂直、または斜めに動く部品で、アンダーカット部分を成形し、金型が開く際に横方向にスライドして抜けるようにします。
  • コア(Side Core / Collapsible Core):スライドと同様に、横方向に動く部品や、金型が開く際に縮んでアンダーカットを解消する機構を持つ部品を指します。

これらの機構は、金型構造を複雑にし、金型製作にかかる時間とコストを大幅に増加させます。例えば、日本で金型を1型起こす場合、およそ100万円が目安ですが、アンダーカット処理が増えればさらに費用がかさむことになります。設計の初期段階でアンダーカットの有無を検討し、可能であれば設計変更で回避することが、コストを抑える上で非常に重要です。

製品化に向けた抜き勾配設計のポイント

製品を設計する段階から、抜き勾配を意識することが重要です。特に、デザインを優先しすぎると、後で抜き勾配の確保が難しくなり、金型製作で大きな手戻りが発生することがよくあります。

3D CADでモデリングする際は、抜き勾配解析ツールなどを活用し、設計段階で不具合がないかを確認することが効率的です。また、金型を製作する前に、3Dプリントなどで試作を行い、実際に手に取って形状や抜き方向を検討するのも有効な方法です。ただし、3Dプリントは積層の筋が見えるため、人に見せる製品サンプルにはCNC削り出しなど別の工法も検討が必要です。

当社では、機構設計の段階から量産を見据えた設計支援を行っています。お客様が持ち込まれた試作品やアイデアを、射出成形をはじめとする適切な製造方法で製品化できるよう、機構設計から金型製作、量産までを一貫してサポートしています。金型製作は日本国内だけでなく、台湾、韓国、中国の取引ルートも活用し、最適な方法を提案します。

製品化は、試作とは異なる多くの専門知識と経験が求められます。抜き勾配一つとっても、その設計が製品の品質、コスト、生産性に大きく影響します。

これから製品を作りたい方、試作はできたものの製品化で困っている方は、ぜひ一度ご相談ください。機構設計・電子回路・基板・組み込みソフト・クラウド・量産まで、製品づくりの全工程を当社が一社で取りまとめてきた経験を活かし、具体的なアドバイスを提供します。

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